『天使と悪魔』

前宣伝通り、サスペンスの面では『ダ・ヴィンチ・コード』より面白い。
というか、毛色が違う気もする。ミステリーからサスペンスに変わった感じ。
欧米人は陰謀論と秘密結社が大好きなのか、今回も「イルミナティ」という秘密結社が出てくる。教会により弾圧された狂信的科学者集団らしいが、陰謀論の全く流行らない日本の客には、その細かい内容は全然分からないと思う。
[以下ネタバレ含む]


時間との戦い、教授に迫る死の危険など、ハラハラするという点では面白い。その反面、ミステリーとしては雑すぎる。「怪しいから怪しくない」「怪しくないから怪しい」という超基本をわきまえるだけで、「犯人」は一人に絞られる。
しかし、見ているときに「でもやっぱり違うかもしれない」と思い続けていたのは、演出がうまいからではない。カメルレンゴ(「教皇の侍従」の意味。本名は忘れた。)が犯人だとすると、あまりにも不合理すぎるからだ。そして、その不合理は最後まで解決されなかった。だから、結論が出た後もあんまり納得できない。
実行犯の男は完全に「プロ」なので、こいつの行動の意味や無双っぷりは別にどうでもいい。しかし、カメルレンゴについては、はっきり言って枢機卿公開処刑を計画・実行する意味が全く分からない。一司祭である彼に何故これだけの「プロ」を雇えるのかも謎。
イルミナティ」という外敵を作り上げて内部の結束を固めるのが目的であれば、教皇候補である枢機卿公開処刑をする合理的理由はない。無駄に「イルミナティ」の仕業らしく演出できる知識も、一体どこから仕入れたのか。またその演出も、完全に過剰だし無意味としか言えない。何しろ、実際にこの演出を目の当たりにするのは下っ端か外部の人間であるラングドンだけなのだから。反物質の研究をやめさせたいだけなら、単なる破壊活動でもよかった。
どちらかというと、最初から「奇跡」「英雄」の自作自演によって自ら教皇になろうとしたという方がまだ納得できる。もっとも、そうだと仮定しても、ラングドンの謎解きが10分早ければ反物質の危機は生じなかったし、逆に10分遅ければローマごとヴァチカンを吹き飛ばす羽目になる。あまりにもリスクが高すぎて現実味がない。
あの結末にするくらいなら、「実はカメルレンゴこそ真のイルミナティでした」ってのの方がマシだった。それなら、実際に反物質でヴァチカンを滅ぼすも良し、うまくいくなら自作自演で自分が教皇になるも良し、反物質が無事回収されたとしても枢機卿を殺し一定の打撃を与えられる。おまけに、「狂信的」という前提があるので行動の凶悪さも違和感なく受け入れられる。


結局、良くも悪くも「何も考えないで見てられるサスペンス系娯楽作品」だった。


あ、あと、あの量の反物質を、3分もかからずヘリコプターで上昇できる程度の高度で対消滅させて、あの程度の被害で済むはずない。