新日鉄住金が韓国の裁判所で敗訴確定したらどうなるか

新日鉄住金が、韓国で常軌を逸した訴えを受け、劣勢に立っている。上告はしているものの、無法国家韓国の裁判所で敗訴が確定する日は遠くない。では、最終的に敗訴が確定したらどうなるのか。

払わない!と言えるか?

ネット上では、新日鉄住金が「敗訴確定したら払う」と言ったことに激怒している意見が見られる。その人は、じゃあどうすればいいというのだろうか。
韓国法はほとんど知らないが、執行法くらい当然あるはずだ。だとすると、いくら「払わない!」と喚いたところで、韓国内にある新日鉄住金の財産が差し押さえられ、強制的に執行されるだけだろう。賠償請求はせいぜい数千万円程度だし、下手に差押えなんかされるくらいなら素直に現金を渡した方がはるかにマシなので、そりゃ払うに決まっている。大企業がひろゆきのように財産隠して雲隠れなどできるわけもないし。
敗訴が確定してしまったら、払わないという選択肢はそもそも存在しない。

日本に引き上げてしまえばいい?

では、仮に敗訴確定前に財産を全て引き上げてしまったらどうなるか?
韓国の裁判だし、日本にある財産には手を出せない…というわけにはいかない。韓国で確定判決が出ると、日本国内でもそれが通用する。
(日本の)民事訴訟法118条は、次のように定めている。

(外国裁判所の確定判決の効力)
第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
四 相互の保証があること。

第1号

この要件は、日本の管轄基準に照らしてその国に国際裁判管轄があるかで考えるとされている。
新日鉄住金は、今回韓国で応訴しているので、応訴管轄が認められる。仮に応訴していなくても、戦時徴用を不法行為と考えると、加害行為地かつ結果発生地である韓国の管轄を否定するのは難しい。

第2号

この要件は、手続保障のためのものだが、応訴している以上明らかに要件を満たしている。

第3号

この要件は、いわゆる公序良俗に反しないこと。
一見、条約違反の滅茶苦茶な判決だから当然公序良俗違反!と思うかもしれないが、ここで言う公序良俗は、民法90条で言うような公序良俗とは内容が違うと考えられている。もしこれが国内法上の公序良俗と同じだとすると、日本の裁判官が日本の法秩序に収まるように審理することになる。それは結局、日本で裁判し直すのと同じになってしまって、外国裁判の尊重や国際的財産執行の迅速化という民訴118条の趣旨が没却されてしまうからだ。
ここでいう公序良俗は、これを認めてしまうと日本の法秩序の根本理念が害される、というような場合に限られる。たとえば、逃げた奴隷の差押えとか、直接適用ではないけど男性同士の婚姻を認める判決など。戦時徴用に対して賠償請求権が生じうるとすること、国家間の取決めにもかかわらず個人の賠償請求権は放棄されないとすることが、日本の法秩序の根本理念を害すると言うことはかなり難しい。
そもそも、国家が個人の財産権を勝手に放棄できるのかという問題に対して、日本の判例では「戦争中のこととか戦後処理については憲法の想定範囲外だからしょうがないよね」と言って放棄を認めている。その言い回しの裏には、普通に考えたら国家が勝手に放棄できるわけないという価値観が見える。それなのに、韓国政府が国民の賠償請求権を放棄できないとすることが日本の法秩序を根本から害する、とは言えない。

第4号

この要件は、その判決を出した国も日本と同じような要件で日本の裁判所の確定判決を承認してくれる、ということ。
これは韓国法を調べていないので分からない。ただ、相手国の承認要件は日本より多少緩くても構わないとされていて、かつ実際に承認された実績があることも不要とされているから、外国判決の承認に関する条項を置いてさえいれば、多くの場合に要件を満たすと思われる。

判決承認されたら執行もできる

民事執行法24条は、次のように定めている。

(外国裁判所の判決の執行判決)
第二十四条 外国裁判所の判決についての執行判決を求める訴えは、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄し、この普通裁判籍がないときは、請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
2 執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。
3 第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条 各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。
4 執行判決においては、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨を宣言しなければならない。

大切なのは第2項。
やっぱり外国裁判の尊重とか国際執行の迅速化といった趣旨から、実質的再審理がされることを禁止している。つまり、日本の裁判所から見て不当な裁判であったとしても、だからといって執行をさせないわけにはいかないということ。この条項があることも、民訴118条3号の公序良俗を限定的に考える理由とされている。公序良俗を広く捉えてしまうと、ここで再審理を禁止している意味がないから。

韓国が次々賠償請求認めてきたらどうするの?

正直言って、現行法上は日本の財産に対する執行を阻止する術はないと思う。
全く根拠事実のないでっち上げの請求ならともかく、韓国政府が勝手に放棄しているというだけの賠償請求権であれば、日本側は承認執行せざるをえない。
どうしても否定したければ118条3号の公序良俗で何とかする以外にないが、前述したようにかなり難しい。というか無理じゃないだろうか…。
だからそこから先は、国家の問題になる。日本政府が特別法を作って対応するか、政治的に韓国を非難・攻撃するしかない。

結論

このままでは、日韓で締結された条約は実質的に反故にされ、日本企業はいわれのない負担を強いられることになる。
それを回避できるのは、韓国司法の良識と日本政府の力だけである。前者に期待することは全く以て無理筋であるから、後者に期待する他ない。日本政府には、この問題について本気で取り組んでもらいたい。