大西科学::ジョン平とぼくと

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ネットでカバー買い、という個人的に極めて珍しい買い方をした小説。別にイラストがものすごく好みだったというわけでもなくて、ほんわかした絵と「ハートウォーミング」という単語に誘われた感じ。
世界観設定が少しだけ変わっていて、魔法世界なのに現実とほとんど変わらない社会が舞台。そのあたりは読めば分かる。面白いと思ったのは、「魔法」と言いながらそれを科学的に扱っていること。科学っていうのは、実験と観察を通して現象の原理を探り、結果を予想すること。作中では一応この魔法の原理について描かれている。普段、「ハリー・ポッター」とかを読みながら自分が妄想していた世界観設定に近しいものがあったので、楽しかった。


話の中身はというと、割と面白く読めた。大どんでん返しがあるわけでもないし、所々妙な部分もあるものの、確かに「ハートウォーミング」だった。恋愛模様には正直つられて泣きそうになったし、ジョン平という存在もなかなかに心温まるものがある。
作中には「使い魔」という動物達が出てくる。使い魔は人間のパートナーとなった動物のことで、知能が高くなったり寿命が長くなったりする。ただそれだけの単純な設定だが、これが一番印象に残った。現実世界とこの小説で一番違うのは、魔法の存在なんかじゃなくて、この使い魔の存在。いつも傍にいて、対話し、成長する。人間相手とは違った密な絆が作られている。使い魔にもやっぱり能力の差はあるけど、それとはあまり関係なく、全ての人間と使い魔は他では埋めることのできない絆を持っているのだ。何というか、年齢を重ねるとそういうのが羨ましく感じられるんだよな。自分が死ぬまで、話し相手にもなる犬(動物なら何でもいいけど)がずっと傍にいてくれるって、すごく幸せな気がする。


ここからはもろネタバレだけど、個人的に泣きそうになったシーン。
一つは、幼馴染みの娘が同じく幼馴染みの親友と付き合ってたのを知ってしまった場面。あれはやばかった。カバーがあれだっただけに、主人公のガ━(゚Д゚;)━ ン !!!って気持ちに思わず同調した。
もう一つは、一瀬が父親(の使い魔)に対して「いいんだ。父さんじゃなくちゃ、こんな使い魔は作れない。父さんはぼくの誇りだ」と言ったところ。マジで泣きそうになった。なんかもうね、言葉に表せない感動があったよ。


最後に、謎が残った点。ジョン平の能力は何だったのかなぁと。鈴音が呼んでると感じ取ったのが能力の一端かと思ってたのに、最後に寧が言ってた言葉のせいでどうも微妙になった。寧の言葉をあっさり解釈するなら、重の魔法がうまくいかない理由がジョン平にあって、ということは「アンチ魔法」みたいなもんだと思うんだけど、それと離れた人の心を読み取るのとはどう考えても繋がらないよなぁ。鈴音の件がジョン平の動物的感覚によるものだと(無理して)解釈しても、寧がジョン平の能力に気付ける場面なんか無かったし、どうもその辺がすっきりしない。どうなってんだろ。


しかしまぁ、全体としては良かった。ジョン平が本当に最後までほとんど役に立たなかったのも、「ハートウォーミング」で良かった。