この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

「アニメやめますか、人間やめますか。」
目の前の妖精が、俺にそう問い掛けている。その妖精があまりにもかわいらしいので、質問されている事に気付くまで一拍空いてしまった。
「え、あ?何だって?」
間抜けな返答にも調子を変える事無く、妖精はもう一度同じ質問を繰り返した。
「アニメやめますか、人間やめますか。」
…二回聞いても質問の意味は分からなかったが、可愛い妖精を前にした俺には、正直そんな事どうでも良かった。
一瞬だけ考えて、俺は答えた。
「アニメのために人間捨てるほど堕ちてはいないよ。やめるのはアニメだ。」
それを聞いた妖精は、少しだけ嬉しそうに、けれどその何倍も哀しそうに微笑って、言った。
「残念…そう、とても残念です。その決断が、あと一年早ければ……。」
残念です、と再び繰り返しながら、妖精は顔を俯けた。そしてそのまま顔を上げることなく、ふっと身体を浮かせたかと思うと、俺の右手の中へとすぅっと消えていった。


***


うたた寝から目を醒ますと、俺はふと自分の右手に目を遣った。
そこには、しっかりとリモコンが握られていた。


その晩、食卓に列んだ三日とろろがやけに美味しくて、俺は、誰宛とも分からぬ手紙にただただ「美味しゅうございました」と書き連ねていた。
その文字は、書いた先から何かの雫で滲んでいった。