新書::世にも美しい数学入門

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

ベストセラー『博士の愛した数式』の作者小川洋子と、数学者藤原正彦との対談。良くも悪くも、あぁ、作家と学者だなぁ、という感じの対談になっています。叙情的に、時にナショナリスティックにひたすら数学を持ち上げる。ちょっと気持ち悪いくらいでした。
藤原氏曰く、数学は役に立っちゃダメ。役に立った時点で格が下がる、とのこと。そこからして自分とは感覚が合いません。自分は、何の役にも立たない命題や問題を何年も机にかじりついて解決した結果よりも、江戸時代の大工が仕事の中で生み出していった幾何学などの方が遥かに高い価値を持っていると思ってしまうのです。
また、「美しい数式」としていくつかの数式・定理が持ち出されるのですが、それらが美しいと思う感覚も共有出来ませんでした。何をもって美しいとしているのか。複雑な事象を「シンプル」にという意味でなら、例に出された数式がそれほど美しいとも思えないのですが。それに、美しい定理と醜い定理の対比もありましたが、自分は、醜い定理の方がずっと面白いと思いました。たとえば、「各桁の3乗を足すと元に戻るような1より大きい数字は何桁であろうと153,370,371,407の他に無い」というのは醜いそうです。これに対して、フェルマー予想は美しいんだとか。何故だかサッパリ分かりません。大して違わないように思えます。
面白いと思ったのは、「真であろうと偽であろうと決して証明出来ない命題がありうる」という事が既に証明されており、かつ「その命題が証明出来るかどうかを判定することは不可能」という事まで証明されているという話です。数学世界も実は曖昧なんだ、というのはなかなか面白いですよね。その他、数学史的な内容は一応面白く読めました。日本人の数学的な才能の豊さなんかも、面白いです。まぁ、読み物としてはそれなりだったかと。