『明日への遺言』

映画と言うより、ドキュメンタリー番組の再現ドラマと言った方がいい作品だった。
若者は絶対観ないだろうなぁと思いつつ観に行ったら、案の定年配の方ばかり。1日でしかも土曜なので映画館は人で溢れてたんだけど、この作品を上映するスクリーンには全然人入ってなかった。


以下、中身と感想。ネタバレあり。
冒頭は、第二次世界大戦と「無差別爆撃」の違法化の流れについて、写真資料とともにナレーションが流れる。何のこっちゃと思うが、この映画の中身が、ほとんど「米軍の攻撃は無差別爆撃だったか」という争点について弁論するだけのものであるため、前提知識として入れられている。
はっきり言って、かなり退屈な映画と言わざるを得ない。何しろ、本当に法廷での弁論しか映らないからだ。人もカメラもほとんど動かない。半分藤田まことの独り芝居になっている。セットも登場人物もごく少ないから、多分制作費はとんでもなく安いだろう。
CMでは「部下のために全責任を負った」とか「法廷で戦った」とかいうことが強調されるが、実際に映画を観て、「全責任を負った偉い人だ」という印象は全く受けない。何故なら、実際の弁論では「捕虜処刑は無差別爆撃という違法行為に対する正当な処罰だった」という主張がメインで、全責任は自分にある、という主張はおまけのような扱いになっているからだ。
また、「不公正な裁判の中で正論を主張し断固戦った」という印象も全くない。むしろ、岡田中将の言論には「それは嘘だろ」的な発言や矛盾点があり、検察側を支持したくなる面もある。たとえば、「無差別爆撃は違法だから爆撃機の搭乗員を処刑したのは正当」と言いつつ、「処刑の全責任は上官たる自分にあって部下に責任は無い」と言うのは、都合が良すぎるとしか言えない。
結局、この映画が何を伝えたかったのかも曖昧になっていて、大した感動場面も無く、ただただ「安上がりだなぁ」という感想が残る。


法廷での弁論と戦時中の回想を交錯させて、戦争の「動」と法廷の「静」を対比する形にしてれば、エンターテイメントとしては面白くなったんじゃないかと思うが、ドキュメンタリー性に拘りすぎて、そういう面白みが完全に削られている。
正直、人に勧めようとは思えない作品だった。